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28 6月, 2017

「住宅建築賞 2017 入賞作品展」レポート

6月30日(金)まで開催の、東京建築士会主催「住宅建築賞 2017 入賞作品展」と、初日に行われた入賞レセプションを見学してきました。
会場は東京京橋のAGC studio。入賞作品5点中3作品を当ブログで取材したことがあるので、レセプションではどのようなやり取りが見られるか非常に楽しみだった。


4年間審査委員長を務めた西沢立衛に代わり、今年の審査委員長は乾久美子で、応募のテーマは「希望のある住宅」。
その主旨について乾さんは「住宅は、住まい手が環境を選びとり、建て、住まうといった一連の行為の総体として現れるものだと思います。それは生きることと同義となるぐらい迫力のあるものだと思います。また、建てることとは 希望をつかみとるような行為なのかと思います。」と明記している。


賞の応募総数は昨年の1.5倍の97点。1次審査の後、現地審査作品5点が選ばれ、それを審査員全員が1日で回るのだが、その際チャーターしたバスの運転手の拘束時間に関わる法律があり、法定時間内に全て回らなければならないという前提がある。


〈住宅建築賞 金賞〉 桃山ハウス/中川エリカ(中川エリカ建築設計事務所)
5年ぶりに選出された金賞だ。
「衝撃的な問題作であると言って良いのではないか。同時に全体をつらぬくポジティブなメッセージに満ちている。そのことが放つ『希望』のようなものに金賞の軍配が上がった。」(平田晃久)
「若い建築家の破天荒な設計に老後のより所を託すあたり、世代特有の熱い意思と批判精神を持つ施主だと思われる。精神の解放を求める意思のようなものが、施主と建築家との間で強く共鳴したのではないだろうか。ここに一種の『希望』を感じないわけにはいかなかった。」(乾久美子)


>> 取材記事


〈住宅建築賞〉 TRANS/駒田剛司+駒田由香(駒田建築設計事務所
「小さなスペースが、隙間を介して分かたれつつ繋がり、変化のある流れや場所の豊かさをつくりだしている。建物の間口いっぱい、前遠くに細長い吹き抜けを設けたのが肝である。」(平田晃久)


>> 取材記事


〈住宅建築賞〉 辰己アパートメントハウス/伊藤博之(伊藤博之建築設計事務所
「建築躯体のもつ物質的な強度を通して都市に棲まう可能性を問う作品。断面寸法の変化する柱・梁によってまちの風景や日光との関係性が強調され、積層された室が変化する。」(金野千恵)


>> 取材記事

〈住宅建築賞〉 Around the Corner Grain/佐野哲史(Eureka)・高野洋平+森田祥子(MARU。architecture)
「丘陵地の集落のような新鮮な経験をつくりだしている。多様性を獲得するための手段が多数投じられ、それにより多様な種類のユニットを生み出し、賃貸不動産としての価値を上げることに成功している。」(乾久美子)


〈住宅建築賞〉 いえ と そと の いえ/萩野智香(萩野智香建築設計事務所)
「家の内にもうひとつ家が入れ子状に入っていて、その内の家の周りに室内化された庭ができる。全体におおらかな構成が良いが、3階にこどもが飛び降りる1mの段差がある。このようなギャップが『家』と『庭』の間で生まれていたらどんなに『希望』が感じられただろうか。」(青木淳)


AGCスタジオ2階で、入賞作品展オープニングレセプション。恒例、レセプションという名の事実上の講評会。


前列左から中川エリカ、佐野哲史、伊藤博之、萩野智香。後列左から森田祥子、高野洋平、駒田剛司、駒田由香の各氏。
審査員の感想や疑問点など聞き入る受賞者。ここで審査結果が変わるわけではないが、受賞者の熱い思いから議論になる場面もある。


前列審査委員長の乾久美子と青木淳。後列平田晃久と金野千恵の各氏。
乾さん「希望というものが、荒々しさと共に見えることに驚いた。思わぬところに転がっているのだと。頭で考えることではなく、自らが突入する事で見えてくるのだろうか。」
青木さん「今ある状況が当然のことではない、ということを教えてもらえたら嬉しい。」
平田さん「中川さんの作品はクリティカルに振れている。歴史的に秩序だった時代の後、バラバラにする時代があるがそれは歴史的を変えるチャレンジ。今回は過渡期のチャレンジと勇気に感動した。」
金野さん「住宅に不変性を求めがちだが、このような構築の方法もあるのだと見せてもらうことができた。私自身大変勉強になった。」

※来年も同じメンバーで審査に挑むとのこと。

【住宅建築賞 2017 入賞作品展】
会期:2017年6月21日〜6月30日
会場:AGC studio(東京都中央区京橋2-5-18 京橋創生館)
詳細:www.agcstudio.jp/project


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26 6月, 2017

河野有悟による住宅+集合住宅「Hal Halle」

河野有悟建築計画室による世田谷区の住宅+集合住宅「Hal Halle」を見学してきました。
1階がオーナー住居、2〜3階が4住戸の賃貸アパート。


敷地面積277m2、建築面積166m2、延床面積363m2。
この規模の敷地になると3つないし4つの小さな敷地に細切れに分譲されてしまうのが東京の常だが、オーナーはそうはせず、親から受け継いだ土地を守ることを選んだ。


外部階段により2階のアパート部へ。デッキ張りの共用部は開けており、住人同士のコミュニティが生まれそうだ。


住人を気持ちよく迎えられるようオーナーは細やかに植栽を手入れしている。


外観で目を引くのが外壁を取り巻くように設えられた4段のリブ。その間に2列の連窓が配され、2階の部屋にとってはハイサイド、3階の部屋にとってはローサイドライトとなる。また日射や周囲からの視線を抑制し、間接光を生むリフレクターの役目もする。


3階はC住戸の玄関。ここではリブが玄関扉にも回っている。


いつも構造にひと工夫入れる河野さん。二つの青いブロックは水回りや収納、PSが納まる機能部分で、それらを内包しながら1階から3階までを貫くコアにして、水平力を全て負担する構造壁となっている。そのコアを包むように各住戸が構成されてている。


〈A住戸〉はメゾネットで、玄関を入ると二層の吹き抜け現れ、早速ハイサイドの連窓が目に入る。


左はすぐ隣家が迫るのでハイサイドが効果的。右の扉は水回りだが、周囲が先に説明した構造コアだ。正面はバルコニーとテラスに通じる。


南側の敷地より数メートル高いため、テラスからは南に向かって視線が抜ける。テラスは対角のD住戸と共用する。世田谷の賃貸アパートで、これだけ空が開けたテラスはなかなかないのではないだろうか。


テラス南側から北側を見る。


3階へ。踏面も含めてトラス構造の階段。


3階では採光はローサイドに切り替わる。
奥は道路斜線により天高が抑えられロフト空間に。ロフトの天井面に合わせて階段室に垂れ壁を設えた。


黒い方立はサッシュも一緒に見えているので太く見えるが、方立自体は60×90と細いもので垂直過重のみを支持している。内側の構造コアを採用したことで可能になった開放性だ。施工中、細い方立を見て大工さんが「こんなに細くて大丈夫?」と驚いていたというが、それだけ強靱なコアが支えているのだ。


2階の〈B住戸〉と、3階の〈C住戸〉はワンフロア。平面の対角に構造コアが位置しているため、居室は雁行したレイアウト。
こちらは2階なので採光はハイサイド、、、


こちらは3階なのでローサイドから。


キッチンを挟んだ反対側の部屋も比較。こちらが2階。


3階。


〈D住戸〉もメゾネット。ここだけコアにキッチンが納まる。


二重の連窓がつくる独特の空間。


1階オーナー住居へ。引越の真っ最中のため全ては紹介できないが、接道側ガレージに挟まれた趣味室へのアプローチがある。


エントランスから奥にはホワイエが現れ、ホワイエを介して趣味室へ。右側には南の庭へ通じる外部通路がある。
中央の扉がある四角い趣味室のボリュームは実は防音室で、全周囲が居室へ接しないように独立した空間になっている。上は2階のテラスだ。


通路で挟んで隔離した趣味室(防音室)は上部にも隙間があり、風や光を導くことができる。


趣味室はちょっした演奏会なども開ける本格的な防音室だ。


居室でのワンカット。東京松屋(上野の本社ビルを河野さんが設計)の雲母引き "江戸から紙” を貼った引戸。
「お施主さんは自然エネルギーを利用し蓄電させ、住民同士でシェアできるような、エネルギーの自給自足を近い将来目指しています。と同時に空間もシェアしながら、住み手のコミュニティも生まれる言わば “エネルギーと生活の場の共有” を実現できるような建物を望まれました。」と河野有悟さん。

【Hal Halle】
建築設計:河野有悟建築計画室
構造設計:長坂設計工舎
設備設計:Comodo設備計画
施工:ウルテック

【関連記事】
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23 6月, 2017

「そこまでやるか」展 レポート/21_21 DESIGN SIGHT

6月23日から21_21 DESIGN SIGHTではじまる企画展「そこまでやるか 壮大なプロジェクト展」の内覧会に行ってきました。
展覧会ディレクターは建築やデザイン、アートなど幅広い分野に精通するライターでエディターの青野尚子。会場構成は成瀬・猪熊建築設計事務所。


本展は、既存の表現方法の垣根を超えた大胆な発想で活動をする世界各国のクリエイター8組によるダイナミックなプロジェクトを紹介し、彼らのクリエイションが持つ特別な力と、そこから広がっていく喜びを伝えるというもの。
「タイトルの『そこまでやるか』は、そこまでやっていいんだ!という率直な驚きとリスペクトで名付けました。彼らが実現する作品は私たちに新しい体験をうながし、これまで思いもつかなかった楽しさと価値観に気づかせてくれると思います」と青野氏。


展覧会の出展者・関係者たち。左から西野達、ジョルジュ・ルース、浅井裕介、梶本眞秀、石上純也の各氏。


〈クリストとジャンヌ=クロード〉
地図や図版などの資料。プロジェクトが実現するために費やされた時間のスケールなど、多様な "壮大さ" と、クリスト50年の歴史を振り返る。

映像作品の部屋。2016年イタリアのイセオ湖で発表した「フローティング・ピアーズ」のドキュメント映像。本展のためにニューヨークのスタジオで撮りおろしたインタビューや、スタジオでの制作風景など。フローティング・ピアーズについて「この桟橋が作品ではない、風景や街の歴史、色など全てが含まれる」と強調している。またこのように「作品を説明することは創作活動の一部」とも。

作品設置の様子


〈マスタバ、アラブ首長国連邦のプロジェクト〉
41万個のドラム缶をつかった彫刻。現在進行中の本プロジェクトをドローイングやコラージュ作品、地図やドキュメント写真で紹介する。
画家としてのクリストの力量を感じることができるエリア。


ギャラリー2へ




〈Church of the Valley〉 石上純也
建築家の石上純也が現在手掛けている教会のプロジェクトを1/10模型で観ることができる。


中国の山東省にあるなだらかな丘の間にある谷。幅1.35m×高さ45mの細長い建築が数年後に完成する。
施主の要望により天井はなく、壁の上は素通しになっていて雨や光が建物内部にも入ってくる。自然環境にはないスケールでの建築体験を目指す。


入口から通路は徐々に1.35mの幅まで狭くなり、奥で広がり礼拝堂になる。壁の(躯体)一番厚いところで2m。コンクリートは30cm程ずつ流し積層していくそうだ。


石上純也氏。「新しい風景や空間が見たいので、やはりここまでやってしまいます。」


〈テープ・トウキョウ 02〉 ヌーメン/フォー・ユース
ヌーメン/フォー・ユースはオーストリアとクロアチア出身の3人組ユニット。今回会場の建築空間に呼応するような、体験型のインスタレーションを発表。
独特なフォルムは、半透明で柔軟性のある素材OPPテープだけを使い、5人ほどが6日間かけて伸ばしながら制作したもの。


中には同時に3人まで入ることができる。


内部の様子。来場者が入ると彫刻が建築になる作品。


実際使用したテープはギャラリーショップで購入できる。


〈ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ〉
2011年の東日本大震災を機に、ミヒャエル・ヘフリガー(ルツェルン・フェスティバル総裁)を発起人として、アニッシュ・カプーア、磯崎新、梶本眞秀等が協働し、長さ36mの巨大な風船状の可動式コンサートホールを制作。東北でコンサートを開催したプロジェクト。


磯崎新によるスケッチ。


人間の思いやりは大きく、ときに実際に "かたち" になる。


〈土の旅〉 淺井裕介
5m×10m、壁一面を植物が育つように6日間かけて完成させた絵画。絵の具は使わず各地で採取した土や泥のみを使用した作品。


近くで見ると動物や植物などが描かれているのがわかる。


〈大都市軸〉〈ネゲヴ記念碑〉ダニ・カラヴァン
作品が設置される場の歴史や風土をふまえたダイナミックな彫刻をつくっているダニ・カラヴァン。本展では2つのプロジェクトの模型やスケッチ、写真などのドキュメントを展示し、綿密なプロセスを見せる。


〈大都市軸(フランス)〉
長さ3キロ以上、制作期間37年間という壮大さ。


〈ネゲヴ記念碑(イスラエル)〉


〈トウキョウ 2017〉ジョルジュ・ルース
会場の三角の空間そのものに施した錯視を利用したインスタレーションと、写真を展示。
あるポイントから見ると作品が正円に見える。


〈カプセルホテル 21〉 西野達
カプセルホテルをモチーフとした新作インスタレーション。


過去の写真作品や新作彫刻もホテルのデコレーションのように展示。


本展会期中には、閉館後に実際に宿泊体験できる予約制イベントも開催される。


簡易シャワーも設えたので安心(キッチンに配管を施した)


「僕ひとりで安藤忠雄さんの建築を使えるなんて!と力が入りました。」「泊まる場合は外から丸見えですのでかなりの覚悟が必要ですが、是非チャレンジしてください。」と西野氏。


刈谷悠三+角田奈央/neucitoraデザインの極小メモパッドや巨大ノートなど、"そこまでやるか”感を表現したオリジナルグッズも販売。

【そこまでやるか 壮大なプロジェクト展】
会期:2017年6月23日~10月1日
会場:21_21 DESIGN SIGHT
詳細:www.2121designsight.jp


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